【公演】TheatreGroup”OCT/PASS”vol.1
1994年3月10日(金)~4月9日(日)
OCT/PASS STUDIO(旧十月劇場稽古場)
〈出演〉絵永けい 松崎太郎 芥 上村作次郎 相田頼智 南城和彦 遠野灯
「素晴らしい日曜日」(冒頭部分) 作:石川裕人
暗い中電話の呼び出し音が鳴る。
タンゴが流れてくる。
何回か鳴った後だれかが受話器を取った。
声 「はい、あなたの生活を豊かにする人〈ビバ!!サンデー〉でございます。」
明るくなる。
アパートの居間。
老人の一人暮らしのシンプルさ。
女3 ああ、ババ・サンデーさん?・・・え?ビーバー・サンデー?・・・ん?それ
で結構ですって?なあにその言い種は、老人にもちゃんと言える名前にしなさ
い。・・・すいませんって随分素直な若者ね、名前は?・・・玉置?いい名前
ね。・・・ああそうね、こんな世間話に花を咲かせてる場合じゃないのよね。
サンデーさんはあれでしょ?色々レンタルやってんだよね。ウンウン、そうそ
うあのね家族をお願いしたいのよ。・・・どんな構成でも大丈夫?だったらな
に、一家十人孫七人なんて事もできるの?
・・・困ってるよ。・・・嘘ですよ、玉ちゃん御免ね。日本の普通の家族構成
でいいの。・・・そう、夫婦に息子と娘。OKでしょ?・・・ええとね今度の
日曜日に何とかならないかしら、夫の十回忌なのよ。
保留のメロディがやかましく飛び込んでくる。
「ビューティフル・サンデー」である。
気を失う女3。
ちょっとして受話器から男の声がする。
声 ・・・もしもしもしもし・・・あれ?もしもし・・・
気が付く女3。
女3 もしもしじゃないよ玉ちゃん、何とかしてよ、あんたん所の保留音楽。
趣味悪いねえ。「冬のリヴィエラ」にしてよ。・・・知らないの?森進一様の
名曲よ。え?なに、大丈夫?「冬のリヴィエラ」にしてくれるの?
・・・違う?・・・ああああ、そうね家族のことね。今度の日曜日いいの
ね?・・・時間?そこのあたりは私良くわからないから普通のでいい
わ。・・・・朝九時から夕方五時まで・・・?・・・取り敢えずそれにし
てくれるかしら。・・・北村せっ。北枕の北、村山トンちゃんの村、せつはひ
らがな。住所は藤の宮三丁目五の二十一、電話番号は八三―八一二二。
キャンセルは二日前まで、はいはいわかりました。
玉ちゃん、あんたは来ないの?・・・あ、そう、職種が違うのね、保留音楽な
んとかしなさいよ。
電話を置き、ふと気が付くとそこに男が一人立っていた。
電話の途中に入ってきていたのである。
一瞬びっくりするが、
女3 なんだ、宇野さん、ああびっくりしたわ。
男3 いやすいませんでした、ドア、開いてましたよ。物騒だなあ、
女3 こんなばあさんなんか狙われませんよ、
男3 嫌々わかりませんよ、せっちゃん若いもの。どう見ても三十は若く見える。
女3 またまた、(お茶の用意をしている)
男3 なんだそんなつもりじゃなかったのになあ、
この老人は宇野功という。
せつの住む町内の会長を務めている。若いときはモダンボーイで鳴ら
したらしい。面影は残っている。非常に小綺麗な老人である。
男3 これ、食べましょう。(たこ焼きである)
女3 あらあら、イカ屋のたこ焼き、
男3 孫にと思ったんだけど、
女3 なんだ悪いわそれは、
男3 なあにまた買えばいいですよ。それよりせっちゃんの無事を祝ってこれ食べま
しょう。
女3 何の無事ですか?
男3 ドアロックもしないで暴漢に襲われなかったお祝い。
女3 そんなお祝いあるんですね、
男3 七十過ぎたら毎日がお祝いですよ。
女3 そうねえ、はいどうぞ。(お茶を出す)
男3 はいこちらもどうぞ。
女3 取り皿出しますから、
男3 なにこれで結構、この爪楊枝で突っついて食べましょう。(一口食べる)
女3 それじゃ遠慮なく、(一口食べる)
男3 こりゃうまいな、しばらくぶりで食べましたよ。
二人食べている。
女3 何でイカ屋なのにたこ焼きなんでしょうね、
男3 そうだねえ、タコ屋にすりゃいいのに、
二人お茶を飲み、食べる。
男3 あそうだ、なんか聞いたことあるなあ、
女3 なにをです?
男3 イカ屋の由来。
女3 へえ、そんな由緒正しい店なんですか?
男3 忘れちゃったなあ、気になるなあ、ちょっと電話貸してくれますか、
女3 どうぞ、
男3 (電話の所に行き、受話器を取ったが)そこまでする事はないか、
女3 なんです?
男3 イカ屋にね、電話して由来を聞こうと思ったんだけど、
女3 あら、それは名案ね、
男3 ・・・名案だよね?・・・じゃあやっぱりかけるか・・・大人気なくないか
ね?
女3 疑問は晴らしておかないと悔いが残りますよ。
男3 ・・・そうだよね、(電話しようと)あ、電話番号か・・・、
女3 包装紙に確か、・・・えーと、〇一九-一九一九。(大イカ・イカイカ)
だって、
男3 何だって?大イカ・イカイカ?「おお行く・行く行く」じゃないか、
(電話を置く)
女3 あら、どうしたんですか?
男3 そんな馬鹿な電話番号を付けるような所の店の由来なんてどうせ知れたもんだ
よ。
女3 そうですね、・・・でも美味しいわ。
男3 ま、せっちゃんに喜んでもらって良かった、という事でゆるしてやるか、
間
男3 ・・・随分長話のようだったけど、
女3 なんですか?
男3 さっきの電話、なにか心配事なら相談に乗るよ。
女3 あれですか、今度の日曜日、亭主の十回忌でね、息子の家族が来るんですよ。
男3 へえ、そりゃ楽しみだね、・・・あれ?でもせっちゃんは息子夫婦と反りが合
わなくて家を出たんだろ?・・・寂しくなったかい、やっぱり。
女3 そんなんじゃないのよ、
男3 え?
女3 レンタル家族っていうものなんですよ。
男3 なんだいそりゃ、
女3 家族を貸してくれるんですよ。
男3 え?家族を貸す?
女3 私みたいに一人暮らしの老人とか、単身赴任のお父さんとかが寂しくなった
時、結婚式、お葬式の時に家族親戚がいないカッコが付かないっていう時に
ね、家族を斡旋して貸してくれるのよ。
※続きが読みたい、上演希望の方はお問い合わせください。
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